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【報告】性売買問題を考えるシンポジウム 第一回 『性売買の現実を変えるために〜性売買サバイバーとともに歩む日韓の活動現場から』当日の様子を公開しました。

2022年には日本ではじめての女性支援の根拠法となる女性支援法が成立し、性搾取に取り込まれやすい若年女性に対する支援が法律に盛り込まれました。しかし、その後も、性売買の構造に切り込む議論や実効性のある支援がなされておらず、被害は拡大し続けています。

そこで、韓国最大級の性売買集結地である釜山・玩月洞(ワノルドン)で、性売買業者の不当な搾取と抑圧に苦しむ女性たちへの支援活動を行ってきたチョン・キョンスク氏をお呼びし、性売買の現実を変えるために必要なことを考えました。

特別ゲストとして、性売買経験当事者ネットワークナリナティの4名が来日し、当事者たちによるトークコンサートも開催しました。

どうして女性達が性売買に誘導されるのか、性売買に置ける主体性や自己選択はありえるのか、性売買のなかで女性達がどのように扱われ、どのような傷を抱え、脱性売買にはどのようなハードルがあるのか、少女や女性が性売買に誘導される社会構造を問い、女性達が脱性売買後の自分の人生を歩いていけるようにどのように社会は変わるべきなのか、韓国の実践から考えます。

当日の様子を公開します。ぜひ、ご覧ください。

■プログラム
〇第一部「性売買の現実を変えるために〜性売買サバイバーとともに歩む日韓の活動現場から」

講師:チョン・キョンスク氏

韓国釜山の女性人権支援センター「サルリム」初代所長。二十代の頃は生きる道を探して迷い続けたが、二十代後半に女性学に出会い、釜山で性暴力、DV、性売買の分野で現場活動家として働くようになり、性売買女性を支援する「サルリム」を立ち上げた。性売買の現場に飛び込み、性売買女性の信頼を得ながら支援する活動に全力を注ぎ、その軌跡が「玩月洞の女たち 韓国の性売買サバイバーとともに歩んだ女性連帯の記録」(現代人分社)として日本でも翻訳出版された。

釜山女性団体連合代表、釜山地方裁判所青少年和解勧告委員としても活動するかたわら、大学で女性学および社会福祉学を講義するなど、多方面にわたって活躍。現在、釜山広域市女性暴力防止総合支援センターセンター長、釜山国際映画祭非常任理事を務めている。

クロストーク:

金富子氏

植民地朝鮮/現代韓国ジェンダー史研究。東京外国語大学名誉教授。共著『植民地遊廓―日本の軍隊と朝鮮半島』(吉川弘文館、二〇一八年)、共編著『性暴力被害を聴く―「慰安婦」から現代の性搾取へ』(岩波書店、二〇二〇年)、監訳『性売買のブラックホール―韓国の現場から当事者女性とともに打ち破る』(ころから、二〇二二年)、監修『無限発話―買われた私たちが語る性売買の現場』(梨の木舎、二〇二三年)、監修・解説『玩月洞の女たち』ほか。

 

宮﨑 理氏

明治学院大学社会学部准教授。専門は社会福祉学、ソーシャルワーク論。反レイシズム、ポストコロニアル・スタディーズ、フェミニズムなどの知見を手がかりに、批判的で社会変革志向のソーシャルワーク理論の研究に取り組んでいる。共著に『The Routledge International Handbook of Feminisms in Social Work』(Routledge、2024年)、『ジェンダーからソーシャルワークを問う』(ヘウレーカ、2020年)など。

 

仁藤夢乃(一般社団法人Colabo代表)

2011年、Colaboを立ち上げ「すべての少女に衣食住と関係性を。困っている少女が搾取や暴力に行き着かない社会へ」を合言葉に、若年女性を支える活動を行ってきた。夜の街で家に帰れずにいる少女に声をかけてつながるアウトリーチや、10代女性無料カフェ、シェルターの運営などを通してこれまでに関わった若年女性は1万人を超える。性売買の実態、背景にある福祉の機能不全、女性を性搾取に誘導する手口や搾取の構造について、当事者とともに声をあげている

 

〇第二部「性売買経験当事者ネットワーク”ナリナティ”トークコンサート」

特別ゲスト:性売買経験当事者団体「ナリナティ」メンバー4名

ナリナティは釜山サルリムの性売買経験当事者の集まりです。 最初の集まりが2009年に4人の会員で始まり、2010年に初めて一緒に行ったワークショップでナリナティの名前が作られました。 ナリナティは「天から降りてきた友人」という意味を持っています。 性売買の経験をあえて言わなくても、どんなことがあったのか、どれほど大変だったのか、そして今どれほど努力しているのかを分かってくれる友人に会うのは難しく、それで私たちの出会いが大切で、だからこそお互いに天から降りてきた友人ではないかと思います。

性売買が女性に対する暴力であるという認識のもと、性売買根絶及び性売買女性を非犯罪化し、被害者支援を広げることを目的とした当事者による韓国の全国組織「ムンチ」としても活動。メンバーの著書に『無限発話―買われた私たちが語る性売買の現場』(梨の木舎、2023年)など。

・ベクチ氏

18歳で性売買集結地に売られ、28歳で脱性売買をしました。20年の歳月の悲しみと苦痛を乗り越え、現在はムンチの主要メンバーであり、性売買を経験した女性を支援する活動をしています。

・ティングル氏(ナリナティ1期メンバー)

ナリナティ自助会を通じてお互いに支持し、応援し合い、多くの力を受けました。 現在はナリナティの活動はしていませんが、同じ被害を受けた女性たちと様々な活動をしています。

・ポムナル氏(ナリナティ2期運営委員)
ナリナティ自助会を共にしながら経験を再解釈し、世の中に対する偏見を破る契機になりました。 今はナリナティの活動をしていませんが、そばで支えて応援しながら過ごしています。

著書に『道一つ越えたら崖っぷち: 性売買という搾取と暴力から生きのびた性売買経験当事者の手記』(ajuma books、2022)。

・レッド氏(ナリナティ1期メンバー)

ナリナティを通じて同じ経験をした女性たちと疎通し、私の経験が誤った人生ではないことを知り、活動家として成長する契機になりました。 今はナリナティで直接的な活動はしていませんが、日常の中でサバイバーとしての人生を生き返らせ、反性売買運動に参加しています。

 

■当日、Colaboの新たなプロジェクトについて発表を行いました。

性搾取と女性差別に抗う女性たちの活動拠点を作る 「女性人権センター」建設プロジェクト

こちらで詳しくご覧いただけます。応援、よろしくお願いいたします!

■寄付サイト:https://congrant.com/project/colabo/17660

■ご寄付のお願いチラシ:ダウンロード


【緊急記者会見・声明】性売買女性を被害者ではなく加害者としてみなし、さらし者にする報道に抗議します(2025年7月25日)

7月24日、各社のニュース報道をはじめ、ネットでも紹介された性売買に関する報道における、女性に対する人権侵害について、緊急記者会見を行い、以下の声明を発表しました。

日本テレビ「大久保公園周辺で売春目的の客待ちか 女4人を逮捕」、TBS「歌舞伎町観光客らを狙った“立ちんぼ”」、FNNプライムオンライン「“立ちんぼ”の女4人逮捕の瞬間」等の報道は、多くの問題がありましたが、会見後、削除されたことを確認しました。

 

【性売買女性の摘発と報道の在り方に関する声明】

性売買女性を被害者ではなく犯罪者としてみなし、さらし者にする報道に抗議し、

女性を処罰の対象とする売春防止法の改正、買春者処罰法の制定を強く訴えます。

 

1. 報道による性売買女性に対する人権侵害

2025年7月24日、複数の報道機関により、東京・新宿区における性売買女性の摘発に関して、4名の女性の顔や名前、年齢、逮捕の様子が動画等で撮影され、報じられました。性売買女性を被害者ではなく加害者としてみなし、さらし者にする報道に抗議し、女性を処罰の対象とする売春防止法の改正と買春者処罰法の制定を強く訴えます。

4人の女性は、今年5月から先月にかけて、新宿区の大久保公園周辺で売春目的の客待ちをしていたとして逮捕されたと報じられています。報道では、逮捕時の様子、女性の名前と顔、年齢の他にも、女性が客待ちする様子や、男性から金銭を受け取る様子が動画等で配信され、現在もインターネットで拡散されています。警察から情報を得た報道機関が逮捕前に隠し撮りをしたと思われるものも複数あり、逮捕の様子もそのタイミングで警察が報道機関に撮影させていると思われます。

2024年1月から11月までに88名、2025年1月から6月までに75名の女性が大久保公園付近で売春の客待ちをしていたとして売春防止法違反の容疑で逮捕されており、これまでにも性売買女性摘発の報道が警察発表をベースに行われてきました。

 

2. 性売買の実態を踏まえた取材と構造に切り込む報道の不在

私たちは、性売買のなかにいる少女や女性たちとつながり、脱性売買を支える活動を15年続けてきました。大久保公園周辺で買春者を待つ女性たちともつながり、相談や食事提供、シェルターでの保護、行政機関や専門支援への同行支援、生活支援や就労支援等、様々な支援を行っています。

性売買のなかにいる女性の背景には、生活困窮や孤立、ホストやコンセプトカフェ関係者からの脅しや借金、グルーミング、家族からの虐待や恋人からのDV、帰れる家がない等、さまざまな問題があります。それらは女性の個人的な問題ではなく、女性に困難を背負わせ、孤立させる社会の構造的な問題です。就業や就学ができなかったり、病気や障害を抱えたりしている女性も多く、複合的な困難を抱えた女性を性売買に誘導し、女性たちが性売買で得た金を搾取する業者や加害者の巧妙な手口があります。

私たちが出会う、性売買を経験した女性たちは「それしかなかった」と語ります。それ以外の選択肢がない状況に追いやられたり、そう思わされたりした女性が多く、大久保公園に立っています。

4人は「客待ちグループ」のメンバーであったと報じられています。大久保公園周辺には、女性たちを路上に立たせ、利益を回収する犯罪組織が複数あり、女性を管理しています。そうした実態を報じることなく、女性の個人的な問題であるかのような誤解を生む報道が、これまで他の事件でも続いてきました。

 

3. 必要な支援と法制化に関する報道の不在 ―売春防止法の問題点

日本の売春防止法では、「何人も、売春をし、又はその相手方となつてはならない」として、売買春を禁止していますが、性を売る側による「客待ち」や「勧誘」が逮捕や処罰の対象となる一方で、買春行為には罰則規定がありません。性を買う側は処罰の対象とせず、買春者は売春の「相手方」として法的にも受動的な存在として位置づけています。女性差別的なこの規定が1956年の制定から70年間改正されていません。

売春防止法は「売春が人としての尊厳を害し、性道徳に反し、社会の善良の風俗をみだすものである」としながら、性売買を女性に対する人権侵害として捉えるのではなく、性売買女性を処罰の対象とすることで性搾取の構造を覆い隠して来ました。

今回の事件について、外国人観光客らから「女性にお金を渡したが、性行為ができなかった」などという通報が、およそ9か月で11件寄せられたと報じられています。日本では、性を買おうとした男性たちが警察に行っても、逮捕されることがないことが世界で知られているからです。今回の事件に関する報道でも、逮捕された女性が晒される一方、彼女たちを買う男性たちの顔は隠されていました。

今、大久保公園周辺では、日本の男性のみならず、世界中から少女や女性を買うために性購買者が集まっています。自国では犯罪となることも、日本では咎められることがないからです。

 

4. 買春行為を処罰の対象とし、女性に脱性売買支援を

北欧やフランス、韓国などでは、買春者処罰法(性平等モデル、買春禁止法などとも言われる)が制定され、性購買者を処罰の対象とし、性売買のなかにいる女性の脱性売買を支える法律があります。

買春者と業者を処罰し、性売買を経験した女性に対しては、被害からの回復のために、シェルターでの保護や生活支援、医療、法的支援、インターンシップ制度や進学援助など、数年間の時間をかけて自身の被害を見つめ、これからについて考える時間と経験、手厚い支援を国が保障しています。

今回の事件で捜査員が、逮捕された女性に「売春防止法の客待ち、前も捕まったことあるよね」と話す場面が報じられています。一度逮捕されてもまた路上に戻ってくるのには、理由があります。

女性を性売買させる組織や、そこから利益を回収している男性たちの存在と手口、また女性を性売買に誘導する社会の構造を見つめ、女性達が性売買をしなくても生きて行けるような選択肢のある社会にしなければ、性売買のなかにいる女性たちの状況は変わりません。

 

5.報道による性売買女性に対する差別と偏見の助長

性売買は、女性に対る暴力です。お金を介することは、一番容易な支配であり、性売買の現場で女性は買春者だけでなく、性売買で得た金を搾取する男性や業者からの何重もの暴力と搾取の被害を受けています。

これまでの報道ではそうした実態が明るみに出ず、性売買女性を悪とみなす価値観や差別意識が広がっています。同時に、性売買女性は見世物として、差別や嘲笑の対象として扱われ、大久保公園で客待ちする女性が無断で撮影されたり、ネットで配信されたりする被害も相次いでいます。

そのような社会の中で、性売買の経験が知られることは、女性のその先の人生に多大な影響を及ぼします。インターネット上に拡散された映像はたちまち世界中に拡散され、削除は困難です。今回の事件のように、性売買女性として実名顔出しで逮捕の様子が公表されることは、女性を被害からの回復や、自立から遠ざけます。

性売買問題に関する報道の際には、女性の人権と尊厳を守るため、プライバシーの保護を重視し、差別と偏見を助長しないため、性売買の実態と構造的な問題に目を向けた報道を求めます。

以上

■記者会見配布資料:
・資料1「性売買女性の摘発と報道の在り方に関する声明文」(2025年7月25日 一般社団法人Colabo)
・資料2「性売買女性の顔出し・実名報道による人権侵害に抗議します」(2025年7月25日 性売買経験当事者ネットワーク灯火)

■メディア掲載
・朝日新聞 『「性搾取された女性がさらし者」支援団体が「客待ち」逮捕報道に抗議』(2025年7月25日)
・弁護士ドットコム『「女性を見世物に」売春摘発の実名報道でColaboが抗議、”買春者”処罰の法改正も求める』(2025年7月25日)


【報告】『若年女性を対象とした支援の在り方に関する研究成果報告会-Colaboとつながった若年女性に着目して』調査報告書と当日の様子を公開しました。

2022年、女性支援法が成立し、性搾取に取り込まれやすい若年女性に対する支援が法律に盛り込まれました。しかしその後も、全国から家出した少女が歌舞伎町に集まり、彼女たちを狙った性売買業者の活動は活発化しています。家出や性搾取の問題が、少女の「非行問題」として語られることも続いています。支援の必要性が認識されても、具体的な支援の在り方が理解されないまま、形だけの支援が広がりつつあることに危機感を覚えています。

Colaboは若年女性たちと「共にある」ことを大切にしていますが、それはどういうことなのか、どのようなかかわりを持ち、どのように活動しているのかを伝えるため、2020年、調査研究チームを立ち上げ、若年女性たちとのかかわりの記録から、必要な支援の在り方を分析し言語化を試みました。

2025年6月14日、「若年女性を対象とした支援の在り方に関する研究成果報告会」を開催し、調査の成果を報告するとともに、韓国で性売買女性を支える活動をおこなってきたチョン・キョンスク氏を招き、若年女性に対する支援の在り方について考えました。

研究者の方々からは、少女たちの置かれた状況と背景にある問題、福祉や既存の制度の在り方を検討するとともに、若年女性が経験する困難や傷つき、回復や「自立」に至るまでに必要な時間や経験、関わりやつながりについて、Colaboの実践から言葉にしていただきました。

性売買を経験した日韓の当事者たちからの発言や、韓国からのゲストのチョン氏とのクロストーク等でも、女性支援のあり方や、「性売買が労働になりうるのか?」等について議論しています。

調査研究報告書と、当日の報告会動画を公開します。ぜひ、ご覧ください。

 

■調査研究報告書(無料ダウンロード)

若年女性を対象とした支援の在り方に関する研究-Colaboとつながった若年女性に着目して

本調査は、日本財団「孤立・困窮する若年女性に対する相談対応および居場所支援」の助成により実施しました。

■研究成果報告会の様子

■プログラム
第一部:若年女性を対象とした支援の在り方に関する研究 成果報告
・日本の若年女性の現状や取り組みの実際・課題 報告:仁藤夢乃(Colabo代表)
・若年女性が経験する困難と支援課題 報告:岡部茜(大谷大学)
・Colaboの若年女性とのかかわり 報告:阿比留久美(早稲田大学)
・かかわりによる若年女性への影響と支援のあり方に関する提案 報告:阪東美智子

第二部:日韓の実践から考える女性支援
「韓国の性売買サバイバーとともに歩んだ経験から~支援において大切なこと」
ゲスト:チョン・キョンスク氏

韓国釜山の女性人権支援センター「サルリム」初代所長。二十代の頃は生きる道を探して迷い続けたが、二十代後半に女性学に出会い、釜山で性暴力、DV、性売買の分野で現場活動家として働くようになり、性売買女性を支援する「サルリム」を立ち上げた。性売買の現場に飛び込み、性売買女性の信頼を得ながら支援する活動に全力を注ぎ、その軌跡が「玩月洞の女たち 韓国の性売買サバイバーとともに歩んだ女性連帯の記録」(現代人分社)として日本でも翻訳出版された。

釜山女性団体連合代表、釜山地方裁判所青少年和解勧告委員としても活動するかたわら、大学で女性学および社会福祉学を講義するなど、多方面にわたって活躍。現在、釜山広域市女性暴力防止総合支援センターセンター長、釜山国際映画祭非常任理事を務めている。

■当日、Colaboの新たなプロジェクトについて発表を行いました。

性搾取と女性差別に抗う女性たちの活動拠点を作る 「女性人権センター」建設プロジェクト

こちらで詳しくご覧いただけます。応援、よろしくお願いいたします!

■寄付サイト:https://congrant.com/project/colabo/17660

■ご寄付のお願いチラシ:ダウンロード


コラボよりご支援のお願い