VIDEO
7月24日、各社のニュース報道をはじめ、ネットでも紹介された性売買に関する報道における、女性に対する人権侵害について、緊急記者会見を行い、以下の声明を発表しました。
日本テレビ「大久保公園周辺で売春目的の客待ちか 女4人を逮捕」、TBS「歌舞伎町観光客らを狙った“立ちんぼ”」、FNNプライムオンライン「“立ちんぼ”の女4人逮捕の瞬間」等の報道は、多くの問題がありましたが、会見後、削除されたことを確認しました。
【性売買女性の摘発と報道の在り方に関する声明】
性売買女性を被害者ではなく犯罪者としてみなし、さらし者にする報道に抗議し、
女性を処罰の対象とする売春防止法の改正、買春者処罰法の制定を強く訴えます。
1. 報道による性売買女 性に対する人権侵害
2025年7月24日、複数の報道機関により、東京・新宿区における性売買女性の摘発に関して、4名の女性の顔や名前、年齢、逮捕の様子が動画等で撮影され、報じられました。性売買女性を被害者ではなく加害者としてみなし、さらし者にする報道に抗議し、女性を処罰の対象とする売春防止法の改正と買春者処罰法の制定を強く訴えます。
4人の女性は、今年5月から先月にかけて、新宿区の大久保公園周辺で売春目的の客待ちをしていたとして逮捕されたと報じられています。報道では、逮捕時の様子、女性の名前と顔、年齢の他にも、女性が客待ちする様子や、男性から金銭を受け取る様子が動画等で配信され、現在もインターネットで拡散されています。警察から情報を得た報道機関が逮捕前に隠し撮りをしたと思われるものも複数あり、逮捕の様子もそのタイミングで警察が報道機関に撮影させていると思われます。
2024年1月から11月までに88名、2025年1月から6月までに75名の女性が大久保公園付近で売春の客待ちをしていたとして売春防止法違反の容疑で逮捕されており、これまでにも性売買女性摘発の報道が警察発表をベースに行われてきました。
2. 性売買の実態を踏まえた取材と構造に切り込む報道の不在
私たちは、性売買のなかにいる少女や女性たちとつながり、脱性売買を支える活動を15年続けてきました。大久保公園周辺で買春者を待つ女性たちともつながり、相談や食事提供、シェルターでの保護、行政機関や専門支援への同行支援、生活支援や就労支援等、様々な支援を行っています。
性売買のなかにいる女性の背景には、生活困窮や孤立、ホストやコンセプトカフェ関係者からの脅しや借金、グルーミング、家族からの虐待や恋人からのDV、帰れる家がない等、さまざまな問題があります。それらは女性の個人的な問題ではなく、女性に困難を背負わせ、孤立させる社会の構造的な問題です。就業や就学ができなかったり、病気や障害を抱えたりしている女性も多く、複合的な困難を抱えた女性を性売買に誘導し、女性たちが性売買で得た金を搾取する業者や加害者の巧妙な手口があります。
私たちが出会う、性売買を経験した女性たちは「それしかなかった」と語ります。それ以外の選択肢がない状況に追いやられたり、そう思わされたりした女性が多く、大久保公園に立っています。
4人は「客待ちグループ」のメンバーであったと報じられています。大久保公園周辺には、女性たちを路上に立たせ、利益を回収する犯罪組織が複数あり、女性を管理しています。そうした実態を報じることなく、女性の個人的な問題であるかのような誤解を生む報道が、これまで他の事件でも続いてきました。
3. 必要な支援と法制化に関する報道の不在 ―売春防止法の問題点
日本の売春防止法では、「何人も、売春をし、又はその相手方となつてはならない」として、売買春を禁止していますが、性を売る側による「客待ち」や「勧誘」が逮捕や処罰の対象となる一方で、買春行為には罰則規定がありません。性を買う側は処罰の対象とせず、買春者は売春の「相手方」として法的にも受動的な存在として位置づけています。女性差別的なこの規定が1956年の制定から70年間改正されていません。
売春防止法は「売春が人としての尊厳を害し、性道徳に反し、社会の善良の風俗をみだすものである」としながら、性売買を女性に対する人権侵害として捉えるのではなく、性売買女性を処罰の対象とすることで性搾取の構造を覆い隠して来ました。
今回の事件について、外国人観光客らから「女性にお金を渡したが、性行為ができなかった」などという通報が、およそ9か月で11件寄せられたと報じられています。日本では、性を買おうとした男性たちが警察に行っても、逮捕されることがないことが世界で知られているからです。今回の事件に関する報道でも、逮捕された女性が晒される一方、彼女たちを買う男性たちの顔は隠されていました。
今、大久保公園周辺では、日本の男性のみならず、世界中から少女や女性を買うために性購買者が集まっています。自国では犯罪となることも、日本では咎められることがないからです。
4. 買春行為を処罰の対象とし、女性に脱性売買支援を
北欧やフランス、韓国などでは、買春者処罰法(性平等モデル、買春禁止法などとも言われる)が制定され、性購買者を処罰の対象とし、性売買のなかにいる女性の脱性売買を支える法律があります。
買春者と業者を処罰し、性売買を経験した女性に対しては、被害からの回復のために、シェルターでの保護や生活支援、医療、法的支援、インターンシップ制度や進学援助など、数年間の時間をかけて自身の被害を見つめ、これからについて考える時間と経験、手厚い支援を国が保障しています。
今回の事件で捜査員が、逮捕された女性に「売春防止法の客待ち、前も捕まったことあるよね」と話す場面が報じられています。一度逮捕されてもまた路上に戻ってくるのには、理由があります。
女性を性売買させる組織や、そこから利益を回収している男性たちの存在と手口、また女性を性売買に誘導する社会の構造を見つめ、女性達が性売買をしなくても生きて行けるような選択肢のある社会にしなければ、性売買のなかにいる女性たちの状況は変わりません。
5.報道による性売買女性に対する差別と偏見の助長
性売買は、女性に対る暴力です。お金を介することは、一番容易な支配であり、性売買の現場で女性は買春者だけでなく、性売買で得た金を搾取する男性や業者からの何重もの暴力と搾取の被害を受けています。
これまでの報道ではそうした実態が明るみに出ず、性売買女性を悪とみなす価値観や差別意識が広がっています。同時に、性売買女性は見世物として、差別や嘲笑の対象として扱われ、大久保公園で客待ちする女性が無断で撮影されたり、ネットで配信されたりする被害も相次いでいます。
そのような社会の中で、性売買の経験が知られることは、女性のその先の人生に多大な影響を及ぼします。インターネット上に拡散された映像はたちまち世界中に拡散され、削除は困難です。今回の事件のように、性売買女性として実名顔出しで逮捕の様子が公表されることは、女性を被害からの回復や、自立から遠ざけます。
性売買問題に関する報道の際には、女性の人権と尊厳を守るため、プライバシーの保護を重視し、差別と偏見を助長しないため、性売買の実態と構造的な問題に目を向けた報道を求めます。
以上
■記者会見配布資料:
・資料1「性売買女性の摘発と報道の在り方に関する声明文 」(2025年7月25日 一般社団法人Colabo)
・資料2「性売買女性の顔出し・実名報道による人権侵害に抗議します 」(2025年7月25日 性売買経験当事者ネットワーク灯火)
■メディア掲載
・朝日新聞 『「性搾取された女性がさらし者」支援団体が「客待ち」逮捕報道に抗議 』(2025年7月25日)
・弁護士ドットコム『「女性を見世物に」売春摘発の実名報道でColaboが抗議、”買春者”処罰の法改正も求める 』(2025年7月25日)
VIDEO
投稿ナビゲーション