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女性人権センター

対談|第10回(前編)辛淑玉×仁藤夢乃「これ以上、女たちから奪わせないために」ーなぜ今、女性人権センターが必要なのか

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Colaboでは今、「女性人権センター」建設を目指してご寄付の呼びかけをしています。
この対談では、Colabo代表の仁藤が女性人権センター建設に賛同する「1000人委員会」のメンバーと対談し、「なぜ今、女性人権センターが必要なのか」をテーマに、性差別の現状を見つめます。

第10回目のゲストは、辛淑玉さんです。
辛淑玉さんは東京生まれの在日3世で、2013年にヘイトスピーチとレイシズムを乗り越える国際ネットワーク「のりこえねっと」を立ち上げ、共同代表として活動されています。2017年にはニュース女子というテレビ番組内で辛さんの名誉を毀損する内容が放送され、制作会社のDHCテレビジョンと裁判で闘争して2023年に勝訴。その他にも在日コリアンの方や外国人の方、 マイノリティの方の人権問題に取り組み、差別に抗う活動をしていいます。

Colaboは社会のリトマス試験紙?―差別が票になる社会の中で

仁藤:辛さんは Colaboの活動をずっと応援してくれていて、能登で震災があった後も何度も一緒に現地に入って活動するなど、Colaboの姿を間近で見ていただく機会がありました。Colaboの活動についてどんなふうに思っていますか?

辛:かっこいいし、革命的ですよね。私たちの世代には全くなかった活動で、社会的にみんなが全く見てなかったところに光を当てた感じがするんだよね。よくあそこに手を突っ込んだな、みたいな。女ってさ、決められた階段を踏み外すと転げ落ちるじゃない?男だったら何回もいろんな形で引っ張り上げられるチャンスがあるんだけど、女が一度転げ落ちると、社会は全てを「叩く側」に回るから、罰ゲームになるんだよね。そこから抜け出せない で、自己責任だって言われて、適切な情報もないし、自分が良かったのかもわからないし。 そういえば、この間出した本のタイトルいいよね。

仁藤: 『バカなフリして生きるのやめた』(新日本出版社)。

辛:あれはまさに人権宣言だよね。バカなふりをしないと生きていけないし、男を立てないと生きていけない。バカな男はいろんなキャリアに就くことができるけど、女はそういうものがあったとしても全部剥奪されてて、その上でなおかつ男を立てないといけない 。そこに対する挑戦状を突きつけて、ずっと闘ってるなと思って。今までそれを突きつけてきたのは、エリートの女だったんだよね。だけどあの本では生の女たちの怒りを可視化して、「ここに社会の問題があるんだ」ってことを思い知らした。

それから Colaboの活動を現場で見た時に衝撃的だったのは、バスカフェに参加した時。アウトリーチしてる時のColaboの女性たちの、女の子たちに関わる瞬間や、話しかける瞬間を見て、どんなに勉強しても真似できないと思った。

仁藤: どんなところが他の団体や、これまでの活動と違うなって感じるポイントだったんですか? 

辛:今までは清く正しく美しく更生させなきゃいけないっていう男の目線だった。「この子たちは間違っているしダメだから」といって、男社会の男目線で、いかに女を更生させていくのかっていう視点だった。そういう視点でかかわる人たちは、自分たちがそれことに対して「加害者」だとはまったく思ってない。

仁藤さんたちを見て側にいるっていうのはこういうことかと思ったんだよね。Coraboの女性たちが「ねー」「おはよー」「何してんの、元気ー?」って話しかけた時に「えぇっ!?」って驚いて。私、今までたくさんの様々な事件に、おそらく日本では一番その手の事件に関わってきて当事者にも会ってきて、それから保護司とも連携してきたと思うんです。でもそんな私でも見たことのない光景だったんだよね。これは絶対私たちにはできないと思った。どんなに私や私たちの世代が頑張っても、この活動はできないと思ったんだよ。 

仁藤:最近は、親が私くらいの年齢っていう子も増えてきてます。でも、歳を重ねても、立場や権力を自覚し、対等な人間関係を築ける努力をしていきたいと思っています。そういうColaboの活動の意味やあり方を、言葉にして説明しなくても辛さんが分かってくれるのは、辛さんがマイノリティの当事者として、そして虐げられた人たちと共にある実践をずっとされてきてたからだと思います。 

辛:そういうふうに見てもらえると嬉しい。自分がしんどかった時に、誰に声をかけていいか分からなかったし、 誰かが助けてくれるとも思ってなかった。助けてくれる人はいない中で、どう生きていくのかっていうのが自分にとっての課題だったから。日本の高校に行きながら夜も昼もアルバイトをしていると、普通の高校生と違う時間帯を生きてるんだよね。同世代の友達がいなかった。いつか、六本木で朝皿洗いとゴミ出しをしてた時かな、私は始発を待っていたんだけど、お洒落した同世代の高校生たちが朝のモーニングってことで六本木でお茶とケーキ食べてたんだよね。それを見た瞬間に、「私がああいうふうにして食べられる時間は来るのかな」と思ったのね。仕事は辛くなかったけど、その子を見た時になんか泣けたよね。

仁藤: Colaboのシェルターにつながる子たちも、最初はどこで寝て、何を食べようかって、どうやって宿を確保するかっていう、そればかりを考えてる毎日なんです。でもそこから私たちと出会ってシェルターに来て休んだり、これからの自分の人生を考えたり、バイトを始めたり、学校に行き始めたりする中で、ふとした時にスタバとかでお茶している、高いドリンクを飲んでる同世代の子の様子がSNSで流れてくる。そして、なんで私の人生ってこうなんだろう、何なんだろうって思って苦しくなる子は多いんです。

辛: 私もいまだに10代のころにできなかったことに憧れたり、欠落感を抱えたりしてる。Colaboの活動は、私は純粋に尊敬しているんだよね。誰もできなかったことに果敢にチャレンジしていて。でもチャレンジした結果というのがあまりにもむごいじゃないか。だから私はColaboに対してどういうスタンスでいるのかというのが、その人間や社会のリトマス試験紙になっているように感じてる。それでも果敢に打って出てるのが、ただもう尊敬以外にない。

仁藤: 始めた頃は私はもっと純粋で、「これは必要なことだし、みんなきっと分かってくれるだろう」と思ってたんですけど、やってみたら全然そんなことなくて。むしろ攻撃にさらされて、市民が人権問題を理解することより先に、少女たちをいたぶることで利益を得てきたような人たちからのあまりにも凄まじい妨害があった。その時に真っ先に相談させてもらったのは辛さんだったし、「ここでブレずに闘え」って背中を押してくれたのも辛さんだった。のりこえねっともColaboが誹謗中傷にあった時に、記者会見を報道してくれました。そして今は排外主義が酷くなって、Colaboを攻撃していた人たちが外国人差別を扇動して、それによって票を集めて政治家になっています。

辛: 差別が票になるんだよ。差別は金になって票になる。

仁藤: そのスタートがColabo攻撃だったと思うんですよね。でもあの時、女性が叩かれてるうちは反差別を掲げている人たちも、これが差別の問題だと気づいていなかったですよね。

辛:「人身売買ですよ」っていってもそれも分かってなかったね。奴隷船に乗せられるようなものしかイメージできなくて、目の前の人身売買や性搾取を理解できない。

仁藤: 私たちが攻撃された時にすぐに、「これは女だからやられた」、それから「若い少女たちを支えて性売買業者を引っ張り出す活動をしているからだ」っていうことを、辛さんはすぐに分かってくれました。在日コリアンの女性たちも私たちの痛みを瞬時に理解して、連帯して支えてくれたのがすごく大きかったです。きっと、痛みのわかるみなさんは、それしかない選択の中で選ばされてきた経験があって。だから今の若い世代の子たちが同じ思いをしていることを深く理解してくれました。でも、どうして性搾取の問題って、特に男性たちにはこんなに分かってもらえないんでしょうか? 

辛:男の子のための教育そのものが社会的に形成されていない。(性搾取の問題が)全く理解できないっていう状況もそうだし、あとはもうどう考えても家庭も社会も学校も教育も、女をモノ以外に扱うっていう情報があまりにも少ないんだと思うんだよね。日本の男尊女卑、先進7ヵ国の中で最下位だからね。爆走している。ここまですごいのがあるのかっていうくらいで驚くよね。女子差別撤廃条約に署名したのが1980年…雇用機会均等法ができたのが85年ですよ。あれから何も変わってないから。女はずっと商品。要するに男に守られるか、男の性欲の処理かということ。1度男の性欲の処理という認定を受けると、その後はずっとその奴隷制度から解放されない。再チャレンジなしだよね。

「人権活動家」の中にも存在する女性差別

仁藤: 辛さんはColaboの活動に出会う前から、性売買の中にいた女性たちを支える活動していたとお聞きしています。その女性たちと関わっていて感じてきたことはありますか?

辛: 私が関わる時は、もうだいたい終末医療に近い時。役所が手に負えなくなった時に連絡が来るんだよね。最初は性的なものが原因だとはわからない。とにかくメンタルがやられて、何回もオーバードーズ(医薬品の過剰服薬)をしたというような状況の中でも、何年か経ってから話を聞くと、何があったかやっと話してくれる。たまたま受け入れた人が、結果として性被害だったっていう形になるのね。

例えば、性被害に遭った人たちが声を上げてくれるけれど、それは特別なことではなく、日常の中に潜んだ全ての階層、全ての段階において、全部そこにあるっていう認識を持ってもらいたい。人権団体もそう。

私はカンボジアで、UNTAC(国連カンボジア暫定統治機構の略称。国連安全保障理事会が1992年2月に設置。)としてちょうどポルポト期のものすごい虐殺があった時に行ったの。そうしたらUNTACの人たちがみんなプノンペンで女の子を買っているわけ。その当時は1ヶ月のカンボジア人の公務員の給料が5ドル、ホテルにあった小さな月餅が12ドル、そしてマティーニが18ドルから20ドルだったけれど、女の子一人の値段が5ドルだったからね。そしてプノンペンのちょっと外れのところに行くと、私から見たら明らかに10歳以下に見える女の子たちがスカートをめくって、それでおっさんたちがみんな買っていくわけね。だから世界中の人権ってなんなのかなって思った。民主主義って、自由って、何なのかって言ったら、そこでは「Without女」なんだよ。人権の中に女は入ってない。日本でもね。

仁藤: 私も学生の頃から特定秘密保護法や安保法制に反対する運動に加わっていましたが、そういうところで活動をしているような人たち、人権活動をしていると言われる弁護士たちが、そこで出会う若い男の子たちを風俗に連れて行く様子を実際に見聞きしました。「人権活動家」と言いながら女性の人権を踏みにじることを当然にしている人は、日本にも今でもたくさんいる。 

辛:民族運動や人権運動をやっている人でも、女性差別に対して無自覚であることはとても多いです。単に女に無自覚なだけじゃなくて、性的に何らかの形で被害を受けた子たちに対しては徹底的に侮っていいと思っているんだよね。だからそれは本当に男の、男社会の課題なんだと思います。

仁藤: 私たちの活動が攻撃される背景には、ミソジニーをこじらせているあからさまに女性差別者のような人じゃなくて、「自分は人権を尊重している」と思い込んでいる人がいます。そういう人はColaboに対して「言い過ぎ」「過激だ」と言うんですが、それを許す状況が日本社会にはある。今の支援の在り方では、Colaboのような「男社会の構造を変えてやるんだ」って言って一緒に声を上げていく、共に闘うことがすごく嫌がられます。

辛:行政がいう「更生」っていう言葉についても、私思うけど、これだけ酷いことされた人が人生50年70年の中であなたが思うような人間にはなりませんよ。生きていることだけでもいいから、残りの時間をとりあえず彼女が自分の体と心を取り戻せるように、そこで壁になるというか、風が来たら少しでもそれがきつくならないようにすることはできる。でも「更生」というのは「俺が望む人間にしろ」ってことなのね。そこでしか金が出てこないというところに、壊した側の責任が全く感じられません。

自分の言葉で語る当事者と表面をなぞるだけのメディア

仁藤: Colaboと関わると、「自分たちに生きる力がある」「人権がある」ってことにみんなが気付いて目を覚まします。だから行政に文句を言うし、自分たちの言葉で権力と闘う。この前、大久保公園周辺で性売買をしていた女性4人を、実名顔出しで逮捕の瞬間をメディアが報じた時も、当事者経験のある女性たちや少女たちが一緒に「これはけしからん」と、その日のうちに怒りを表明して一緒に記者会見で話をしました。何が問題かも、Colaboで一緒に過ごしていくなかで、さまざまな立場の女性たちが自分の言葉で話せるようになります。

辛:ダメな子たちが泣いてすがるのを「俺が助けてやってる」っていう構造を好んで、自らの意思を持って「おかしい」と声を上げた女性は受け入れないのが日本社会なんだよ。

仁藤:意思を持って主体的に生きることをして欲しくないわけですよね。

辛: だから「俺が守る」みたいな活動だけが評価される。Colaboに関わっている女性たちと会うと、ものすごくクレバーに感じるんだよね。私の本職は企業内研修で、実は業界トップクラスを走ってたから今があるんだけど、そこで年間3000人くらいに出会うわけね。そこで会う人たちって、学問を積んでて企業に採用される人たちだから、すごく均質性がある。彼女たちも非常に立派なこと、ちゃんとしたことを言えるんだけど、でもColaboの中で会う子に共通してるのは「自分の言葉」を持っているということ。自分が置かれていたものが何だったのか、自分の言葉で語ろうとする。前に一緒にご飯食べたときに「何か社会に望むことない?」って聞いたら、「男女平等賃金」って言われて、私、結構衝撃的だった。

自分の置かれている状況を、社会の問題として捉える力が当事者にはあるということ。だから取材する側も、この子たちが「馬鹿で哀れな女」であれば記事になりやすいけど、きちんと主張し、人権問題だって言った瞬間に、彼らは多分オタオタしちゃうんだろう。

仁藤: 「今まで表面的な報道しかしてこなかったメディアの責任だ」っていうと、メディアの人たちはすごく嫌がるし、そういう加害者性や情けなさを見抜かれることに対する恐怖心をすごく感じますね。

辛:「俺が助けてやってるのに、俺のこと言ってどうするんだよ」っていうね。私からしたら「お前たちがちゃんと自分たちの問題として声を上げろよ」って思う。メディアの人たちは「俺はあいつとは違う」みたいなスタンスを取りたがるんだけど、もし本当に違うんだったらお前がちゃんと声を上げろよって。記者会見の時もそうだったけど、記者会見をするために記者を説得しなきゃいけないという。

北朝鮮の拉致問題ですさまじいバッシングがあったとき、記者会見をしたら100人以上来たのに、1行も記事にならなかった。あれだけみんなが北朝鮮を悪いと思っている時に、朝鮮人の子たちの側につくってことは、どのメディアもできないんだなと思って、結構愕然としたんだよね。結局、「みんなに受ける社会の差別」を前提とした、つまり「社会の偏見」を前提とした記事でないと書けないって人たちが多い。

仁藤: Colaboの記者会見もいつも女性で満席だし、立ち見が出るほど人はいっぱい来てくださるんですけど、現場の記者が書きたいと思っても、だいたい上に行くと男社会だから、全然書かせてもらえないっていう。

辛:メディアっていうのは、政治家もそうだけども、その時に80%、90%の人が反対したとしても「これなんだ」ってことを言い続けなきゃいけないと思うんだよね。だから本当に仁藤さんやCoaboのメンバーがしている闘いって、歴史の転換、価値の転換なんだと思います。こういう言葉を使うのは好きじゃないけど、「革命」をやってるんだなって思うわけ。革命には返り血は出てくるし、その中で分断されることもあるけれど、日本だけじゃなくて世界が培ってきた「常識」「男性優位の構造」に対して、本当の意味での人権宣言なんだよね。フランス革命は男の革命だから、ようやく新しい革命が起きたんだなっていう感じがする。

仁藤:バカなふりをすることで女たちが生きさせられていると思うし、マイノリティの人達もそういう風にしないと生き延びられない時ってあると思うんですけど、バカのふりができるのって、相手や構造をちゃんと見ているからなんですよ。 

辛:だってさ、ソープに来てよ、女買ってよ、「なんでこんな仕事してるの」ってさ、「お前どの面下げて言ってるんだよ」って思う。

仁藤:同時に「エッチなことが好きなんだね」とか言うからね。

辛: つまりそういう人は、一度も自分がどう見られているかって考えたことがない。こっちは「お前みたいな汚い親父が側にいるだけで嫌だよ」とか思ってるのにね。ものすごく自分が見えないっていう意味では、日本も国家も男も本当によく似てるよね。

仁藤:その女たちがバカなふりをするのをやめて本領発揮したら、ひっくり返せるんじゃないかなと思って。でもそこに対する男たちの反発がすごくある。支配できる相手だと思っていたのに「こんなはずじゃなかった」って思うんでしょうね。

辛:私のような、最初から体も声もでかくて「ナメてるんじゃないよ」っていう感じでいる人ではなくて、(仁藤さんのように)パッと見て小さくて可愛らしくて、自分に従いそうだと男が勝手に思うような雰囲気の子が「やめて」っていうと、私が「やめろ」っていうよりも1000倍ぐらい頭にくるんだろうな。


(後編)「女たちの手で切り拓く、安心できる未来」に続く

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