コラム

女性人権センター

対談|第3回(後編)モード・オリビエ×仁藤夢乃「ポルノ・性売買の構造的暴力と社会が支払う莫大な代償」―なぜ今、女性人権センターが必要なのか

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Colaboでは今、「女性人権センター」建設を目指してご寄付の呼びかけをしています。
この対談では、趣旨に賛同する「1000人委員会」のメンバーとColabo代表の仁藤が、「なぜ今、女性人権センターが必要なのか」をテーマに、性差別の現状を見つめます。

(前編)「性売買という奴隷制度をなくすために」はこちら 

人間の身体は譲渡不可能―性売買が「サービス」にはならない理由

仁藤:フランスで2016年にできた買春処罰法では、性売買がどのように位置付けられているんでしょうか。「体を売るということ自体が人権侵害」ということが基本理念として、共通認識になるように法律に書かれているのですよね。

オリビエ: フランスの憲法には「人間の身体は譲渡不可能だ」という条文があります。「譲渡不可能」とは、売られたり買われたりできない、ということです。例えば、フランスでは目や腎臓などの臓器を売ることはできません。臓器売買は禁止されています。それも人間の身体の譲渡不可能性の一部なのです。憲法というのは私たちの共和国の、そして私たちの権利の根幹となるものです。性行為を買うということは、人間の身体を買うことを言明するということです。

ですから他人のための妊娠(代理母)もフランスでは禁止されています。女性の身体を他の人の赤ちゃんを妊娠することに使うべきではないとなっています。誰かが自分の子どもを他の女性に産ませる代理母は、人間の身体は譲渡不可能であるということと同じ理由で禁止されているのです。そしてそのことは憲法の中の一つの原理なのです。

仁藤:日本でも臓器の売買はダメと分かる人はたくさんいるけど、性売買はサービスだと思われています。

オリビエ:自分の身体を使って性行為をすることはサービスを提供することにはなりません。誰かを手助けすることがサービスになるのとはちがって、性的なサービスというのは人間の身体の非常にプライベートな部分が関係することなので、平等に関すること全てに関わってくるのです。

というのも私たちは性的な関係というのは共有された欲望の上に成り立っていなければならないと考えているからです。欲望というのはつまり、性的な関係を持つ人自身の意志ですが、それを「売る」となった瞬間に、本当は欲望を持っているわけではないということになる。そしてご存知の通り、性を売る状況にある人たちは害を被るわけです。サービスを提供すると言いながらその人たちは暴行を受ける。言うなればその人たちは顧客からのレイプを被っている。だからそれがサービスであると考えることはできないのです。その点から、一般的な「サービス」と性を売ることの違いは大きいのです。

性売買の本質は「労働」ではなく「強制」と「隷属」

仁藤:日本では左派やオリビエさんの社会党と近い考えを持つ政党の人たちも、多くがセックスワーク論という、性売買を労働として認めて安全に管理して性売買をできるようにすればいいという主張をしています。安全な性売買なんてないって私たちは現場の経験から理解しているんですけど、性売買を人権問題というよりも労働問題として捉えようとする人に対してはどのようにこの問題を説明しますか?

オリビエ:「セックスワーク」ということを語るのは間違いです。「セックスワーク」とは、性売買あっせん業者と関連業者のネットワークによって、性売買にも尊重に値する側面があるかのように見せかけるために吹き込まれた観念です。性行為を売ることは仕事にはなりえません。仕事とは、報酬を得るためのものだけれど、自由に選ばれるものなのです。性売買は、常に隷属であり常に強制であり、決して自由に選ばれるものではありません。常に経済的な問題を抱えているからこそ携わるものなのです。

ですから本当に「セックスワーク」ということは頭から追い出して、それについて語ることはやめなければなりません。セックスワーク論は私たちのしていることとは逆のことです。

仁藤:私も同じように考えています。セックスワークという言葉は構造的な暴力を覆い隠してしまいますよね。

契約による合法化は「真の同意」か? 日本のAV新法とフランスのポルノ規制

仁藤:日本では性売買業者側の運動がものすごく力を持っています。性売買の自由を認めることで女性たちが、店や自身の行う「サービス」を選べるようにすればいいという考え方が広がっているんですね。ただ、そもそも女性がなぜ性売買をしなければならないのかと考えた時に、「貧困やそれ以外に道がなくて仕方なくそこにいた」「本当はそうしたくなかった」と語る女性たちがほとんどなんです。そういう構造に目を向けずに、体を売ることに対してだけ女性の主体性や選択の話にして、女性に責任を押し付けて搾取の構造を見えなくすることが日本ではものすごく広まっています。

日本では2022年の春に、契約の名の下で性売買を合法化する法律が、AV被害者救済法という名前で制定されました。この法律では、ポルノに出演する女性たちが、どんな相手とどんな性行為をするのかが契約書で明記されていれば合法であると政府が認めています。法律は、AVの被害者救済をうたいながら、実際には日本では禁止されているはずの挿入も含めたあらゆる性行為を、「契約」をもって「合意の証明」として合法化し、性行為の様子を撮影して販売することができます。

オリビエ: フランスでは2年前に女性の上院議員たちによって、ポルノについての調査がなされました。上院の議員たちが、ポルノについて非常に特化したフェミニストの団体と一緒に、本格的な調査をしたんです。それはまさに、ポルノが表現しているあらゆる暴力を社会に知らせるためでした。さらにその団体は、女性上院議員たちの支援を受けてポルノ映画のプロデューサーたちを告訴したんです。彼らは、「これはただの映画だ、本当じゃない」と言っていましたが、実際には「映画だから本当じゃない」なんていうことはなく、映画の中とはいえ実際に暴力行為が行われていたんですから。そして、拷問や残虐な行為を伴ったポルノを制作したということで現在告訴されているプロデューサー、俳優、演出家たちがいるのです。

仁藤:日本のAV被害者救済法は、契約の名のもとに性売買を合法化しているため、私たちは「経済的困窮などを背景にした「契約」は同意ではない。契約をする女性たちにはいろいろな背景があり、その結果AVにたどり着いている」と実例を伝えて反対しました。でも日本だと、ほとんどの女性支援団体がその法律に賛成をしまして、Colaboだけが反対の立場を明確に表明するような状況になりました。多くの支援団体にも、性売買の実態や構造が理解されていないのです。そういう状況だからこそ日本における性売買は非常に深刻だと思います。ポルノが性売買に与える影響についてはどのように考えますか?

オリビエ:ポルノ問題は非常に深刻です。周知のとおり、インターネットの普及でごくごく若い人たちも12歳頃からポルノにアクセスしています。そのせいで彼らは早くから性的な関係について完全にバイアスのかかった考えを持ってしまうのです。そこで描かれる女性はたいてい、服従的な状況にあります。ポルノの中の女性は若くて、性的関係を求める立場には決して立たず、常に被害者で、たいてい相手の暴力を被るという図式なのです。ですからポルノは若者の性については教育上とてもマイナスです。

そのため、子どもがネット上でポルノにアクセスすることを実際に妨げる法律を作ろうという動きがあります。子どもに対しては動画の配信をブロックすることを命じられた配信元がいくつかありました。今もフランスで子どもの閲覧が禁止になっている配信元があります。実際、公権力が動いて、子どもに対していかなる制限もしていなかった配信元に抗う働きかけがありました。なぜなら、若年者が平等な性的関係を学ぶべき段階に、ポルノの描写に触れることがどれほど破壊的な影響をもたらすか、すでに知られているからです。

仁藤:日本でAV被害者救済法ができたとき、超党派の国会議員が行った民間団体のヒアリングに私も参加したんですね。私の隣にAV業界団体の人が4人来ていて、業者と支援団体が対等に扱われました。そこで業者は「AV産業の市場は3000億円あり、日本の経済を支えている」と主張しました。フランスでもポルノや性売買について、収入源でありビジネスなんだという主張はあるんでしょうか?

オリビエ:おそらくそうです。残念ながら、ポルノは性売買網と同様、莫大な金が儲かるのです。そしてそれこそが問題なのです。私たちはまさしく経済的な問題と人間の尊厳の問題を切り離すところまで辿りつかなければならないのです。今私たちは経済的自由主義が、金の力が、さまざまな人の人生を丸ごと破壊していて、良い人生というものを自分で選ぶこともできなくなっていると指摘するところまできていると思います。なぜなら金のせいで全てがねじ曲がってしまうからです。現代人は、選択を迫られるもの、良く生きることよりもGDPのほうが重要だと決断せざるを得ない地点にまで引き立てられてきているのです。これこそ私が社会主義者として真っ向から抗いたいものです。そして私としては、世界中の社会主義者がこの意見を共有してほしいと思っています。

年間16億ユーロの社会的損失―データが証明する性売買の「コスト」

オリビエ:性売買は人が思っているのとは反対に、社会にコストをかけさせているのです。フランスでは、保健行政の観点から性売買システムのコストの算定が行われました。性売買の状況にある人たちはかなりの場合、自殺未遂をしたり、アディクション(依存症)を抱えています。性売買の中で堪え忍んでいくために、アルコールや薬物を消費し始めてしまうのです。ですから社会的にも健康面でも伴走が必要なわけですが、それは社会にとって非常に大きなコストがかかるのです。ゆえに私たちはこのことを糾弾しています。

性売買は、実は社会に利益をもたらしてはいないのです。経済的な面からも、性売買は国を豊かにしていません。全ての国でデータを出して比べられたら良いでしょうね。性売買のコストは高くつくことがわかりますから。実際に儲かるのかということで言えば、とりわけ性売買あっせん業者とその関連業者のネットワークに金をもたらしています。国は常に、性売買とさらにはポルノによって生じる損害を埋め合わせることを余儀なくされていますよ。

2015年に性売買が国にもたらすコストを計算する研究がありました。その計算によると、性売買が国にもたらすコストは性売買の経済的・社会的な損失としてフランス社会に年間16億ユーロ(約3000億円)の負担を強いていることが分かりました。その中には、保健行政の観点から治療中に必要とされる伴走に関するコストや、子どもがいる場合の保育費用、性売買の状況にある女性が自分の子どもの世話ができない状態にある場合などの支援の費用が含まれています。心理的支援や医療支援にもコストはかかります。性売買を経験した女性が自ら命を絶とうとする傾向はそれ以外の人に比べて高いからです。

そうした女性たちは、フランスでもそうですが、国の平均年齢よりもかなり若くして亡くなっています。そして性売買のもたらすコストの研究によれば、10年間で4万人の女性が性売買から抜け出すためには約2億4千万ユーロ(約450億円)必要とのことです。性売買がフランスの国家にもたらしている利益のほうが少なかったのです。

仁藤:日本でも性売買がどんな悪影響をもたらしているのかということを、研究者やメディア、政治も巻き込んで発信していかなければなりません。

オリビエ:性売買は世界的なシステムを持つ現象なんです。つまり、どこにでも存在し、実のところやり方もほぼ同じなのです。ですから人々の考え方を変える必要がある。まさに意識改革に取り組まなければなりません。

「一部の人たちは、暴力を被っても仕方がない」とされる現状なんて、到底受け入れることができない。こういった意識を、私たちの社会で広めなければならないのです。

「一方には性売買に携わる女性たちがいて、もう一方には携わっていない女性たちがいる」というものでもありません。性売買は全ての女性に関わるのです。それを理解しなければならない。つまり、男性が女性について「買うことのできる身体を持っている」とイメージすること。特にそれに抗い、闘わなければならないのです。

男性が女性について持っているイメージに抗い、男性が女性に対して「自分たちのほうが優れている」「権力を持っている」と思っているイメージに抗い、女性たちが政治の分野で権力を持たねばならないのです。それが私の闘いなのです。また、メディアの助けも借りねばなりません。女性たちを支えることができるメディアです。

それからさまざまな団体の力も借りて、こうした議論を公の場で行う必要がある。そして、重要なのは政治家を巻き込むことです。法律を変えられるのは彼らです。法律は政治家たちによって作られたものなので、それを変えていかなければならない。SNSを使って彼らに絶えず訴えかけなければならない。彼らにひっきりなしに催促しなければならない。それもいい方法だと私は考えています。

声を上げる女性への攻撃を乗り越えて―日本に「女性人権センター」が必要な理由

仁藤:今、日本では、性売買の実態を表に出すことや、性売買が搾取や暴力だという認識が広まることを恐れている人たちが、ものすごい攻撃をColaboに仕掛けてきています。活動の現場にも様々な妨害があり、連携していた行政、東京都や新宿区がColaboに対して活動中止を求めたこともありました。そのため、2023年度から、私たちは市民の力だけで、行政から1円もお金をもらわずに活動を続けています。

今、声を上げる女性に対して、日本では攻撃がすごく強まっている。だからこそ、オリビエさんにも賛同していただいた女性人権センター建設プロジェクトを今回立ち上げました。この女性人権センターが日本にできることへの期待や、意義についてどのように考えますか?

オリビエ:私は、女性たちのためのセンターを建設することはとても素晴らしいと思います。女性人権センターは、フランスにはたくさんあってさらに増えていますし、それらには国や、県、地方、あるいは市町村からお金が出されています。病院が併設されているセンターもあります。というのも、性的な身体損壊や性的な暴力の被害に遭った女性たちがいるからです。ですから暴力の被害にあった女性たちに特化されたサービスもあるのです。

また、女性団体のためのセンターもあって、そこで女性たちは人権について学んで、伴走もしてもらえて、自分たちが持つ全ての権利を理解し、主張することができるようになります。それから、子どもたちと暮らす住居を得るための支援に特化した女性人権センターも複数あります。女性人権センターというのは、安全が保証された非常に重要な場所で、女性たちが暴力を受けた場合に自分を立て直すことができる場所なのです。

確かに、それには費用がかかります。しかしそうはいっても人類の半分は女性なわけですから。
どんな政府もこうした女性人権センターに資金を出す姿勢を明白に打ち出さなければなりません。なぜなら政府も、女性たちが暴力を受けていることを受け入れることはできないはずだからです。女性たちというのは、各政治家の妻、娘、従姉妹、隣人女性でありうるわけです。仮に姉妹や娘はいなくても、たとえば彼らを育てたのは彼らの母親でしょう。だからこそ、こうした女性たちに対する尊重から各国政府は女性人権センターに積極的に関わって、伴走したり財政援助をしたりするべきなのです。さらに、各個人、各地域が女性人権センターに積極的に関わらなければならない。それは根本的なことなのです。

仁藤:フランスの実践を学びながら、日本でも実現していきたいです。

最後に、日本で性売買の中にいる女性たちや、性差別の中で苦しんでいる多くの女性たちにメッセージをいただきたいです。

オリビエ:女性たちが受けている暴力は嘆かわしいことに、世界中にあります。そうした暴力はずっと昔から存在していますが、今こそ私たち女性が全員で一緒に闘わなければなりません。フランスにせよ他の国にせよどこに行っても、そうした闘いを女性たちが起こし始めているのがわかります。あなたがたが集まって団結することができる以上、あなたがたはまさにこうした暴力に抗して皆で一緒に闘う段階にたどり着けると、私にはわかります。

あなたがたに言うべきこと、それは決して「あなたがたの落ち度ではない」ということです。あなたが受けている暴力はあなたの落ち度ではありません。あなたに対して暴力的に振る舞う人物にこそ、問題があるのです。ですから、「自分にはこうした暴力に抗い闘う権利があるのだ」と胸を張ってください。

そして夢乃さんが先頭に立って建設しようとしている女性人権センターは、あなたにとって安全な、あなたが安心できる、あなたの味方になってくれる場所になるでしょう。こうした闘いの中で、あなたは決して一人じゃないと、胸に刻んでください。

地球上の全ての女性たちがこうした闘いを経てきました。女性たちは世界のいたる所で集まって、実際にNOと言い「MeToo」「私も暴力を受けた」と声を上げています。この現状を終わらせるために、私たちは一緒に闘いましょう。がんばりましょう。

【会場参加者からの質疑応答】オリビエさんを迎えて|なぜ日本は「性を買える社会」のままなのか?

Aさん:日本でAV被害者救済法ができる時に業者が「3,000億円の利益を出す産業だ」と言ったという話がありましたが、そのとき、ある国会議員も「この3,000億円産業を潰すわけにはいかない」と言いました。右派を中心とする国会議員とAV産業の癒着があると、私達は考えています。フランスでは国会議員と性産業の業者の癒着というようなことはあるんでしょうか?もしあったとしたら、どう乗り越えてきましたか。

オリビエ:今、もしフランスに業者と国会議員との癒着が存在していれば、さまざまな政治家から、あるいは団体から糾弾されることでしょう。フランスの場合、たいてい、そうした業者は外国で設立されています。それがフランス領の中であれば私たちは闘えます。でも外国で設立されている場合は、国としてそれと闘うことはとても困難です。しかし、いずれにせよフランスの政治家たちが、大っぴらにポルノを支持したり奨励したりできるとは考えられません。

Bさん:今日は大変貴重な話を聞かせていただきありがとうございました。特に、何のために買春を辞めさせるかというところで、「人間の自由と平等のためだ」というのがとても印象的でした。私達もそういう目標、原理原則をきっちりおさえた上でやっていこうとあらためて感じました。「女性のためだけにやってるわけじゃなく、「人間の自由と平等をどういうふうに本物にしていくか」という大きなテーマに私たちの活動が結びついていると実感されましたので、とてもありがたかったです。

Cさん:民間企業の動きについて質問させてください。買春に関連する問題で、民間企業のサポートや資金提供に意見表明があったのかということが知りたいです。企業には社会に対する大きな影響力と責任があるはずですが、日本の企業はすごく日和見的で、社会的な問題のなかでも当たり障りのないものにしか手を出そうとしません。

フランスの話で興味深かったのが、SHEINが少女のセックスドールを販売したことに関して、服飾ブランドのアニエスベー(agnès b.)が即座に反対の表明をし、SHEINが入っているデパートから撤退を決めたというニュースです。これは日本ではまず有り得ません。なので、なぜフランス企業はそこまで社会問題や女性の人権に対してアクションを起こせるのでしょうか。

オリビエ:2016年、若い女性のアクティビストが「女性財団(Fondation des Femmes)」という団体を創設しました。彼女の名前はアンヌ=セシル・メルフェール(Anne-Cécile Mailfert)といいます。彼女は財団を創設し、あらゆる大企業を訪問して出資を求めました。そして彼女は企業からたくさんのお金を集めました。企業はこうした活動を支援し、「私たちは女性の権利を支持し、お金も出している」と宣伝することで、企業価値を高められるからです。

フランスでは、シャネルも複数の「女性の人権情報センター」に出資しています。そういった支援が実際にあり、支援することによってそれらの企業の価値は高まるのです。

Dさん:買春する側の意識の変化についてお伺いしたいです。買春する側は単純に性欲だけじゃなくて男同士の連帯を強めるために買春するということもあると思うのですが、買春者処罰法ができたことでそういった男同士の連帯、ホモソーシャル的なものを解体することに寄与したと思いますか?

オリビエ:はい。買春者処罰法ができたために、男性たちも「性的なサービスを買いに行くぞ」と大っぴらには言えなくなりました。すでにその前から性を買うことを自慢したり、「俺は性を買いに行ったぞ」と言ったりすることはなくなってきていましたが、今ではさらにそういうことは減り続けています。私も実感していますが、「性的サービスを買ったのか、おお、すごいな」などと言うことはもうなくなっています、本当に。なぜなら彼らも、今では法的に訴追されうることがわかっていますからね。

ひとつ逸話を話したいのですが、ちょっと理解するのが他のことより厄介な話です。フランスには90年代に「俺のダチ(ポット)に手を触れるな」というスローガンがありました。差別および人種差別に対抗するスローガンで「私の仲間を差別するな」といった意味です。私が買春者処罰法を提案したときに、とあるキャンペーンを始めた男性たちがいたんです。「俺の売女(ピュット)に手を触れるな」というスローガンで。フランスではピュットというのは性売買に携わる女性のことで、言葉遊びをしたわけですね。

注目すべきことは、フランスの下院議員たちでこの法案のことを軽視していた人たちも、これを聞いたときに「いや、これはダメだ。私はこれに連帯するわけにはいかない」と言ったことです。その結果、キャンペーン発案者の意図とは逆に、この法案への賛成票は増えたんですよ。そのキャンペーンは下劣で、なにしろ言葉のチョイスが最悪でしたからね。

これでわかったのですが、フランスの男性たちは「俺は売女たちのところへ行きたい、俺は売春婦たちに会いに行く」と言うような人たちとは連帯していないということです。また、このキャンペーンの賛同署名者たちの多くは後になって性加害で訴追されました。女性に対して暴力をふるったとわかったからです。

仁藤:日本だと性売買を認めないことが「女性に対する差別」だという風に言われることがあります。性売買をしている女性を尊重していないから性売買に反対するのだ、女性たちは好きでやっているんだから選択肢を奪うな、体を売る権利を奪うな、と言って性売買に反対する声を封じようとすることがよくあります。

オリビエ:性売買に反対することは女性たちに対しての差別ではありません。私たちがやりたいのは「性売買は普通の活動ではない」と示すことです。性売買に頼らざるを得なくなるというのは「当たり前のこと」ではありません。だからこそ私たちは実際に性売買を根絶したいのです。性売買を根絶したい、しかし女性の権利を根絶したいわけではありません。

私たちが「性売買の禁止」と言うと、人は女性たちに性売買の責任があると考えがちですが、女性たちは性売買の責任を負ってはいません。責任を負っているのは100%買う側なのです。性売買に余儀なく携わる女性たちには選択肢がなく、不安定さや経済的な問題の被害者だからです。ですから、私たちは当事者が性売買から離れることを支えるのです。私は性売買の状況にある女性に対して軽蔑の念を持ったことは一度もないし、被害者のことを劣っているとみなしたことは一度もありません。私はいつも暴力がどこから来るのかを観察していますが、暴力は男性たちから来ているのです。女性たちは性売買の被害者です。

仁藤:「性売買の禁止」を訴えることで、私たちは、「女性の性売買する選択権を奪っている」「女性の主体性を否定している」という批判をされます。それがすごく広がっていて、日本では、反差別の運動している人の多くがその考えです。

オリビエ:それはなんというか、ひっくり返すというやり方ですね。彼らは罪悪感を、ひっくり返してこちらに持たせようとしているんです。彼らは「こうなるのはあなたがたのせいだ」と言ってくる。彼らは、特に、自分たちに責任があるとは言いたくないのです。顧客や男性政治家たちは、夢乃さんのことを差別者扱いすることに決めたわけです。なぜなら彼らはとりわけ、自分たちの責任を引き受けたくないからです。

私たちがこの法律を作ったとき、性売買に携わっている人たちには「伴走」する必要があるから、そうしようと決めました。彼女たちは自分でなんとかするだろうと言って、一人で闘わせることなど論外でした。それとは逆に、私たちは彼女たちが解放されるように、自律性を得られるように、自由な女性になるようにと闘っています。彼女たちが性売買のなかで、囚人のままで居続けずにすむように。

フランスで私たちがやった最初のことは、以前存在していた(性売買女性による)「客引き」という犯罪をなくすことでした。女性による性売買の勧誘が「客引き」として犯罪になっていたのは、「女性が顧客を探しているのだから、女性の側に性売買の責任があるのだ。」と考えられていたからです。ですから私たちは、「いいえ、女性に責任はない。性売買があるのは顧客がいるからだ」と言いました。言わば刑罰上の責任をひっくり返したのです。今では刑罰を受けるのは顧客です。そして性売買に携わっていた女性は、自由な女性になるのです。

仁藤:日本社会でも、性売買に対する認識と概念そのものを変えてひっくり返す、それが必要ですね。

オリビエ:かつてフランスで死刑の廃止を行ったときも、当時は皆、死刑がなくなるなんて実現するわけがないと考えていました。でも人々が、男性たちも女性たちも闘って、「人間を殺すことはできない」と言ったのです。ですからフランスという国家は、今後決して人間を殺すことを決定できないのです。それが「死刑の廃止」です。

私たちは、死刑の廃止のためには人々の考え方を変える必要があったし、それは性売買の根絶についても同様だと思っています。今もまだフランスに死刑を復活させたがっている人たちがいます。しかし、今のところこの法律はよく持ちこたえています。

ヴィクトル・ユゴーというフランスの作家の言葉をご紹介しましょう。当時、「フランスでは奴隷制度はもう根絶された」と言われていましたが、ヴィクトル・ユゴーは言いました。「フランスでは奴隷制度は消滅したと言われているが、それはちがう。それは続いている、しかし女性たちだけに重くのしかかっている。その名は性売買と言う。」と彼は言ったのです。ヴィクトル・ユゴーは、この言葉を200年前に言ったんです。

仁藤:200年闘い続けても、まだその奴隷制度が続いているのですね。

オリビエ:私はこの問題に関心を寄せて行動する日本の皆さんに全員に、本当に感謝しています。とりわけ夢乃さんには本当に感謝しています。なぜならあなたがたの国では、この闘いはとりわけ困難だと私は感じているからです。そんな中であなたがたは、とても勇気があって、とても意欲があることを私は知っています。夢乃さんは本当に積極的に前に出て、たくさんのリスクを負いながらやっている。夢乃さんの勇気を賞賛したいと私は前から思っていました。

仁藤:ありがとうございます。これからもオリビエやフランスの女性たちとも連帯を強めて、一緒に性搾取社会に抗っていきたいです。 

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